2008年6月20日金曜日

フリーズ・ドライ

20 日朝、大はしゃぎの Twitter が告げてくれたように (参照 Sol 25 のフェニックス)、 『ドードー=ゴルディロックス』で見つかっていた白い層の正体が 氷以外にありえないという自信あふれる宣言がなされた。 前の掘削時に白い層からこぼれ落ちていた小さな塊が数日して消えたことから、 昇華したのだという判断みたいだ。 プレスリリースはこちら: Bright Chunks At Phoenix Lander's Mars Site Must Have Been Ice, アリゾナ大学。

うーん、あったか! しかも氷が地表のわずか数 cm 下に隠れていようとは、おどろき。 こんなに浅ければ、ダスト・デビルなどで始終地表に現れてきてしまうだろうに。 いずれまた土で隠されるにしても、氷は一方的に減ってしまいそうな気がする。 何かの仕組みで再供給しなければならないように思えるのだけど。 わからん。

とはいえある意味、火星での水の氷そのものの発見が大ニュースというわけじゃない。 水の氷は以前から極冠などにあることがわかっていた。 60°ぐらいだかの緯度より上で地下に大量の水分があることも、 軌道からのガンマ線の計測で示唆されていた。 輝く極冠は、火星を望遠鏡でのぞいて真っ先に目立つ存在で、 それが季節ごとに変化する様は、 美しさにため息をつくアマチュア天文家にとっても、 そのダイナミクスを思い巡らす惑星科学者にとっても 火星でどこよりも興味深いところなのだ。

火星の南極と北極は軌道のいびつさや高度の非対称さから、 違った振る舞いをしててそれも面白いんだけど、 夏でも消えない北極冠には氷が直に表に出てくる。 一方、冬が来ると雲に覆われるとともに、厚いドライアイスの霜が降り、 それはフェニックスのいる場所にも達する。 火星の大気は薄いながらほぼ二酸化炭素だから、大気が凍っていくのだ。 大気が凍っていくとははたしてどんな光景だろう。 そして再び暖かくなると、激しく二酸化炭素を吐き出していく。 とにかく大地と大気が謎めいたダイナミックな語り合いをしているところが火星の極の姿。 フェニックスはこれからそうした火星の秘密の会話の一端を我々に明らかにしてくれるはずなのだ。

昼と夜では飽和水蒸気量がすごく違う

白い氷を実際にとっての分析はこれから本格的にはじまるのだろうけれど、 正直、消えたのが確認されただけで氷と言い切っちゃって大丈夫? と素人考えでちょっと心配してしまう。 一体、火星のあの環境の中で氷ってどのくらいの速さで昇華するものなんだろう? いくらかでも見積もれたりできないだろうか?

温度をえいやっと一定に決めといて、氷の塊もほややっと定めとけば、 大気の水蒸気の圧力ってのは、いわばまあ、塊にぶつかってくる水の分子の数なわけだ。 んで、氷といえどもちょっとはブルブルしているから、 分子が飛んできた勢いの一部を氷のどっかの分子に与えちゃえば (つまり熱を与えてれば) 分子は氷に引っ付いちゃう。 ブルブルのタイミングがよければ (気化熱を奪って) 逆に一部の水分子は、 他の水分子との間の力を振り切って氷から大気の中に旅立っていく。 大気の水の分子の数があるところで、氷から出て行くやつと入ってくるやつが同じだけになって、 つまりは平衡状態になる。 水でも同じこと。 そのときの大気の水分子の数がいわゆる飽和水蒸気圧 (に相当するもの)、 湿度 100 % の梅雨のじめじめ。 このときは洗濯物はいくら待っても乾かない。 火星の気圧と気温では氷が安定だから、昇華するには空気の乾き具合が洗濯同様重要なのだ。

などと思い出したところで、水の相図なんぞを取り出して眺めていると、 フェニックス君あたりの今の昼 (−30°C) の気候では、 飽和水蒸気圧は大雑把に 0.1 hPa のオーダーっぽい (大気の数 % 相当)。 でも寒暖の差が半端じゃないから、夜 (−80°C) には 2 桁以上も小さくなる。 大気中にどのくらいの水蒸気があるものなのかわからないけど、 氷の霜が降りるなどという話は聞いたことがないので、 夜でも飽和していないだろうから、まして昼は湿度 1 % 以下。 火星は相当にカラカラの洗濯日和なんだろう (というよりフリーズ・ドライだけど)。 やってくる水分子がほとんどないなら、確率的に偶然に飛んでいく水分子の数が昇華の速さだな。 気化熱とかあるし、形とか表面積とかあるし、熱伝導性とかは? 他の分子の存在 (圧力) も関係しそう。 頭いたくなってきた。 ちなみに関係しそうな範囲での水の相図をわりかしちゃんと書いてみたのが右上の図。

逆に冬季に温度が二酸化炭素が凍る −120°C 以下にまで下がれば、 飽和水蒸気圧は極端に小さくなるので (グラフもっと下まで必要だった…)、 さすがに飽和状態になるだろう。 このときってドライアイスの雪とともに氷の雪も降るのだろうか? それが土壌へ水が戻っていく仕組みなのかな? でもどうやって土の下に戻れるのか分からないけど。

追記 夜間は水蒸気が飽和すると教えていただいた。 つまり昇華した分、微量に霜が降りているっぽい。 夜間の飽和水蒸気圧に束縛されて、 少ないながらも地表が大気の水分をダイナミックに呼吸してるんだろう。 地下に厚い氷の海をかかえて、地表の土壌は条件が許す限りで水分であふれているのだという気もしてくる。
ドライアイスになるには暖かい

こうなると二酸化炭素の相図も知りたくなるのが人情で、ネットで調べる。 と、これが、たいがい一番下の圧力の目盛が 1 気圧とかだったりする — 火星に使えやしねえ。

なおも検索していたら二酸化炭素のハイドレートの図とともに Wikipedia でそれらしいものを見つけることができた。

二酸化炭素ハイドレートは、いわゆるメタン・ハイドレートの二酸化炭素版で、 氷の分子の容れ物の中に二酸化炭素を詰めたもの。 それが気体の二酸化炭素や水の氷と一緒に存在できるのは 2 番目の相図の灰色の部分らしい。

記事にはなんか火星との関係とか、氷よりも融けにくいよとか、 ごにょごにょ書いてあるが無視して相図だけながめる。 今のフェニックスの環境では、地球と同様に気体が安定なのだ (でなきゃ大気が凍る冬ってことだ)。 だからドライアイスは、何のおかまいもなく地球と同じようにあれよあれよと気体になってしまう。

ちょっと面白いのはフェニックスのいるところの気温が、 だいたい二酸化炭素の三重点の真下あたりだということだ。 ちなみに地球より小さな火星の内部はかなり冷えていそうで、水があったとしても温泉にはならない。 地下も同じぐらいの温度だとするなら、これはなかなか面白いことが起きていそう。 地下が氷が主として無理やり比重を 1 とすれば、 だいたい地下 10 m で、地球と同じ 1 気圧となって、 さらに 50 m にもなれば、三重点あたりに達することになる。 このあたりではもしかすると氷とドライアイスと二酸化炭素ハイドレートと液体二酸化炭素が あんなことやらこんなことやら、なんだか楽しげなことになっているのかもしれない。 いや全然わからん。 信じちゃだめだよ。 いずれにせよフェニックス君の腕にはちょっと深すぎるけど。

0 コメント: