2008年6月26日木曜日

氷の海

さて、土壌の下の数 cm というすごく浅いところに氷があったということで驚いたわけだけど、 そもそも凍土が存在してるってのはどっからきたのか? おそらく、火星の歩みに関するいろんな理論・学説は入り乱れているのだろうけど、 その辺はよく知らない。 とりあえずよく聞きすぐに持ち出される間接的な証拠は『マーズ・オデッセイ』のガンマ線分光計による結果。

宇宙空間には宇宙線がたくさん飛び交っている。 人間の作った加速器など目じゃないほど高いエネルギーの宇宙線も。 こいつが火星に当たることで、なんだかんだいろんな段階をへて 最終的に原子核を特定できるスペクトルをもつガンマ線を出す場合がある。 そういうことにしとこう。 こうして出て来るガンマ線のスペクトルを軌道から根気よく観察して 地表だけでなく地下にある原子核の種類も調べられるんだそうだ。

このガンマ線分光計 (GRS) が 2001 年に打ち上げられたオデッセイにも搭載された。 『2001 マーズ・オデッセイ』というベタな正式名称を与えられたこの探査機は、 いまでも元気に火星を回り続け、フェニックスの中継衛星にもなってくれている。 左 3 枚の図の一番上は 2004 年にそんな分析で水素原子核の分布を調べて水の量を推定した画像。 きれい過ぎるぐらいだけど、 南北の緯度だいたい 50° ぐらいより端ではかなりはっきり地下が水分だらけってことになってる。 単位が多分相対的なもので、どのくらいかがわからないのだけど、 凍った土じゃなくて、土った氷だってぐらい。 他にも、故『マーズ・グローバル・サーベイヤー』がポリゴンっぽい地形をそれ以前に見つけてたし、 他の探査機もいろいろそれらしきものが。 ちなみにこの GRS もアリゾナ大学で運営されてて、その責任者だった Boynton 氏は、 フェニックスのトラブル続きの TEGA の責任者でもある。 トゥーソンの地で話はいろいろとつながっているのだ。

ともかく、水素なんてあちこちありそうで水とは限んないんじゃ、 と素人は懐疑的に突っ込みたくなるのだけど、 フェニックスの見た消えた小さな白い塊はいやそんなことはない火星は氷に満ち溢れているのだ! と宗旨替えもいとわない発見だった。 いやまったく信じていなかったわけじゃないけど。

もしあのあたりの地下が実は氷だらけで、その上に申し訳程度にチリが積もった土が被っているのだとしたらどうだろう? 大量の氷が大気と平衡状態になるにはあんな薄い土壌ぐらいじゃだめで、 どんどん昇華して大気に水をかなり明け渡してしまいそうな気がする。 しかし夜の飽和量が昼よりずっと小さいので、わりとそうでもないみたい。 昼と夜とで土壌は水分のわずかな呼吸を繰り返すだけで、 覆った土壌の厚さは直感的に心配するほど問題でないのかもしれない。

ところで、火星の地形は不思議で、北半球が高さが低くて比較的平らでクレーターも少ないのに対して、 南半球は巨大クレーターのヘラス盆地を除けば標高が高くでこぼこで山がち。 2 番目の画像のグローバル・サーベイヤーの高度計が作った地図をみるとそれがよくわかる。 この非対称性は不思議だけど、地球の海の平らなプレートと陸のプレートの違いを思わせもする。 火星人は地球の太平洋を見たら、なんだこの平らな窪地って不思議に思うかもしれない。 そう北半球は海っぽいっていうふうに話を持っていこうとしている。

フェニックス君の居場所はこれらの画像の黄色い丸。 ちょうどオリンポス山をずっと北にいった方で、水素たっぷりの海のような地域にどっぷりつかったところ。 そこを拡大したのが 3 番目の画像。 グリーン・バレー (Green Valley) という谷とは呼べないような平らで幅の広いくぼ地の一角で、 ここはポリゴンに覆われているだけでなく、 石も非常に少ない地域であることが着陸前にマーズ・リコネサンス・オービターが調べていた。 もし火星に氷の海が広がっているのならまさにここしかないというような場所。 いや氷の海だ。 きっとそうに違いない。 かつて液体であった (かもしれない) 海が氷に姿を変えて残っているという説は本当だったのだぁ。 それじゃあ、南半球でも水分が同じぐらいたくさんあることになっているのはなぜ?ってきかれるとまったく困るけどね。 海はいいよね。 広いしね。

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フェニックスの TEGA, MECA の顕微鏡に次いで主要な分析装置としては最後のものとなる MECA の WCL (湿式化学実験装置) に『白雪姫』方面からのサンプルが投入されたみたいだ。 TEGA の最初のサンプルの質量分析の結果もそろそろだろう。 残った土は TEGA (加熱器・質量分析器) の 2 回目の分析に回されるのが当初の予定だったはずだけど、 今朝のプレス・リリースによればいくらか TEGA が問題を抱えているようで、 どうするか検討中ということみたいだ。

確かに sol 24 のロー・イメージには TEGA の右から 2 番目の口が土の重みでうまく開いていないかに見える画像 (raw image, アリゾナ大学サイト) があったのだけど、 「かに見える」のではなくてどうもそうだったよう。

「われわれがテスト装置でここ数日に行ったテストでは、この状態のドアの開き方でも ロボット・アームは疑似的な火星の土を供給できた。」 「われわれは、氷のサンプルを受け入れるために広く開けることのできるセルはとっておきたいと計画している。」 TEGA の主任科学者 (lead scientist) でトゥーソンのアリゾナ大学の William Boynton は語っている。

昨日のエントリで紹介したブログ氏が、 科学チームがトゥーソンに戻って検討している問題とはこのことだったんだろう。 他にも最初の投入のときに振動をさせすぎたせいで、 オーブン付近の回路がショートしているかもなんて心配もしているみたい。 TEGA は最初の週に加熱のためのフィラメントがひとつショートしていたから、 よけいに気がかりなんだろう。 なかなか大変だなあ。

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さて、今日の『ネイチャー』には火星北部の低地の成因をテクトニクス説に対抗して巨大インパクトだったとする MIT の研究者の説が載っているらしいのだが。 ふーん。

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