2008年6月28日土曜日

Sol 32 のフェニックス

Sol 32 は日本時間 2008/06/27 (金) 12:56 ~ 06/28 (土) 13:35 (米太平洋夏時間, PDT 06/26 20:56 ~ 06/27 21:35) ぐらい。

太陽黄経 (Ls) 91°, 太陽と地球との間の角度 28°.6, 地球までの距離 3.13 億 km, 太陽高度 3°.4〜47°.0

Twitter 翻訳

(Twitter / MarsPhoenix より。 火星現地時間はおおよそ)

Sol 32 19:54 (06/28 09:22 JST, 06/27 17:22 PDT)
また火星掘ってる! 白雪姫の溝は、氷の層までのサンプルを採るのにちょうどいいみたい。 氷が液体だったことがあるかどうか知りたいんだ。

ロー・イメージより

(Sol 32 Raw Images より後日作成)

『白雪姫』が掘り進められて幅の広い溝とされた。 以下は若干撮影時間や明るさが異なるものの、平行法による立体写真として左右のカメラによる画像を並べたもの。 撮影時刻の違いによるものか、あるいは掘ってからの時間経過によるものか、 底の白い模様は前ほど目立っておらず、以下のいくらか長波長の画像ではむしろ暗くなっている。


#8066 (Sol 32 17:14)
左眼用
フィルター L1 (672 nm)

#8072 (Sol 32 17:22)
右眼用
フィルター R1 (672 nm)
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona

またロボット・アームの手首部分についた TECP (熱・電気伝導度探針) とその夜間撮影のテストが行われたよう。 TECP は土壌に挿入することにより、熱伝導度や電気伝導度、温度などの測定を行う。 以下の画像は23 時台にロボット・アーム・カメラ (RAC) が撮影した画像。 左が赤い照明をあてたもので、右が照明なしのもの。 左の方が中心部がいくらか明るくなっている。 白夜とはいえ暗くなる夜間なら RAC による照明を使ったカラー撮影も可能かもしれない。


#8300 (Sol 32 23:05)
赤色 LED 照明

#8301 (Sol 32 23:06)
照明なし
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona / Max Planck Institute

2008年6月27日金曜日

アスパラガス

Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona

“Wet Chemistry Laboratory” (WCL)、 まともな訳かどうか分からないけど湿式化学実験装置。 その湿式ほげほげに昨日、土が投入されたけど、さっそく結果発表。 Twitter も伝えているように、火星の土はアルカリ性で、 アスパラガスも育つなかなかいい庭の土になりそうだとか。

アスパラガスの話は出てこないけど、上のプレス・リリースの方の訳 (誤訳があったらご容赦)。

2008 年 6 月 26 日 — NASA のフェニックス・マーズ・ランダー (Phoenix Mars Lander) は、 昨日、火星の土で最初となる湿式化学実験 (wet chemistry experiment) を問題なく実行し、 フェニックスの科学者たちにとっては、まるで宝くじに当たったかのような豊富なデータが得られた。

フェニックスの装置、顕微鏡・電気化学・伝導度分析器 (Microscopy, Electrochemistry and Conductivity Analyzer), MECA の主任科学者で NASA ジェット推進研究所の Michael Hecht は言う。 「ぼくらは化学のデータの洪水に浸かってるよ。」 「火星の濡らした土の化学的性質がどんなものか、 何が溶け込んでいて、どのくらい酸性、あるいはアルカリ性なのかかを知ろうとしてる。 昨日、フェニックスから受け取った結果を使って、 土のどんな点が生命を支えうるかが言えるようになるだろう。」

「これは、火星だけじゃなく地球以外の他の惑星で行われたこれまでで初めての湿式化学分析だ。」 湿式化学調査の科学主任でタフツ大学の Sam Kounaves は語る。

フェニックスの最初の 2 日間の湿式化学実験のおよそ 80 パーセントはすでに終了した。 フェニックスは、ミッション中、後で使うためにまだ 3 つの湿式化学実験装置を有している。

Kounaves は言う。 「この土は、 南極のドライ・バレー (dry valley) の上流で見つかった表面の土と似通ってたものに思える。」 「この場所での土のアルカリ度はまさに衝撃的なものだ。 この特定の場所、表層から 1 インチのものでは、土はとても塩基性 (basic) で pH は 8 と 9 の間だ。 それから、様々な種類の塩類も見つけた。 まだ分析し同定する時間を持ててないものの、 マグネシウム、ナトリウム、カリウム、塩素が含まれている。」

「塩類は水に含まれるのだから、これは水が存在したさらなる証拠でもある。 さらに適度な量の養分、つまり私たちが知っているような生命が必要としている化学物質も見つかった。」 Kounaves は語る。「次第に私は、火星の驚くべきところとは、それが未知の世界であるからじゃなく、 鉱物学とか多くの点で地球にとてもよく似ているからだとの判断にいたり始めている。」 (以下に続く)

なぜかいくらか食欲をそそる名前の『南極ドライ・バレー』とは 雪や氷に覆われていない極地の「砂漠」を言うようだ。 ググるといろいろ出てきて注目を集めている場所であることがわかる。 マクマード基地に近い 『マクマード』 (McMurdo) という一群の谷が最も有名なよう。

低温で水分が飽和することによる乾燥やポリゴンの存在など、 確かに火星のこの地域になぞらえる部分は大きいんだろう。

それにつけても、最近ちょっと心配かけてる TEGA 君だけど、 気になる最初のサンプルの分析について「驚くべきもの」だとして少し触れられている。 まだどこを驚けばいいかの情報は出てきていないけど。 またどうやら今後の掘削は、 何か硬いものがあるけど白い層には行き当たっていないポリゴン中央の『白雪姫』側を重点的に行うような雰囲気。 やっぱり気をもたせるなあ。

(続き) フェニックスのもうひとつの装置、 熱・発生気体分析装置 (Thermal and Evolved-Gas Analyzer, TEGA) は、 最初のサンプルを摂氏 1000 度 (華氏 1800 度) まで加熱した。 これまで別世界の土壌サンプルをこうした高温まで加熱した例はない。

TEGA の科学者は、土および氷の化学的組成を同定するため、 各温度範囲で放出されたガスの分析を開始している。 分析は複雑で、その過程には数週間かかる。

しかし、「装置からもたらされた科学的データはまさしく驚くべきものだった」 とフェニックスの副調査員で TEGA の主任科学者であるアリゾナ大学の William Boynton は言う。

「現時点では、土壌が過去に水と明らかに相互作用してきたんだとは言える。 それが北極地域のこの特定の場所で起きた相互作用なのか、 どこかで起きてこの地域にチリとして風で飛ばされてきたのかは分からないが。」

JPL のフェニックス計画の科学者である Leslie Tamppari は、 フェニックスがそのミッションの最初の 30 火星日の間に何を達成してきたかを数え上げ、 今後の計画についての概要を述べた。

Tamparri は、地表ステレオ撮像装置 (Stereo Surface Imager) が、今のところ フェニックスの着陸地点の 3 色 360 度パノラマ撮影の 55 パーセントを完了していると語る。 フェニックスは、光学顕微鏡で 2 つのサンプルを分析するとともに、 TEGA と湿式化学実験装置の両者でそれぞれ最初のサンプルを分析した。 毎日の大気の雲、チリ、風、温度、圧力についての情報を集め、 また最初の夜間の大気測定も行った。

着陸機のカメラは、溝を掘る間に露出した白い塊が、 数日をかけて昇華もしくは気化したことにより凍った水の氷であることを確認した。 フェニックスのロボット・アームは掘削を行いサンプルを採取してきたが、 ボリゴン地形のひとつのポリゴンの中心にある『白雪姫』 (Snow White) 掘削溝で これからもそれを継続する。

Tamppari は言う。 「我々は、ここが、 一番上の表面から予測されている氷の層への概要をつかむのに最もよい場所だと考えている。 それが何年も前、ミッションを提案するときに行いたいと願った計画である。 おそらく存在している氷の層にいたる土壌を採取できるような、 まさにこんな場所を我々は望んでいた。」

Sol 31 のフェニックス

Sol 31 は日本時間 2008/06/26 (木) 12:16 ~ 06/27 (金) 12:56 (米太平洋夏時間, PDT 06/25 20:16 ~ 06/26 20:56) ぐらい。

太陽黄経 (Ls) 91°, 太陽と地球との間の角度 28°.8, 地球までの距離 3.12 億 km, 太陽高度 3°.4〜47°.0

Twitter 翻訳

(Twitter / MarsPhoenix より。 火星現地時間はおおよそ)

Sol 31 04:32 (06/26 16:55 JST, 06/26 00:55 PDT)
ウェット・ケム (湿式化学) 実験装置 (MECA) が、 水曜に土の塩類と酸性度を調べる土のはじめての分析をやった。 結果は木曜にでるよ。
Sol 31 04:40 (17:04 JST, 01:04 PDT)
ぼくの科学チームの何人かが木曜、 ワシントン DC のスミソニアン・フォークライフ・フェスティバルに。 モール地区で発見成果の紹介をするんだ。 詳しいことは @NASAFolklife でわかる。
Sol 31 17:25 (06/27 06:10 JST, 14:10 PDT)
科学チームの報告だと、ウェット・ケム実験での「火星の泥」は、 栄養を含んでて、アルカリ性、pH で 8~9 だって! 火星の土は「やさしい」。
Sol 31 20:24 (09:14 JST, 14:14 PDT)
火星の土について詳しいことは、 今日の科学ブリーフィングの MP3 が http://is.gd/GXx で聞けるようになったよ。 書かれたものと画像は www.nasa.gov/phoenix に。
Sol 31 20:26 (09:16 JST, 14:16 PDT)
このやさしい土には、 マグネシウム、ナトリウム、カリウム、塩素の塩分と養分が含まれてる。そして pH が 8。 科学者たちは、アスパラガスでも育てられるかもって。
Sol 31 20:43 (09:33 JST, 14:33 PDT)
アスパラガスや他の植物はこんな土がお気に入りだけど、 他の要因のせいで火星では育たないだろうな。 土はやさしいのに環境はそうじゃない。
Sol 31 21:10 (10:01 JST, 15:01 PDT)
ある種の地球の生き物は、過酷な環境でもたくましく生きてる。 火星の過ごしやすさを確かめることがこのミッションの鍵だけど、 これはこの謎を解く手がかりになる。

ロー・イメージより

(Sol 31 Raw Images より後日作成)

Sol 5 に発見され、sol 8 にも撮影が行われたデッキの下の白い模様『ホーリー・カウ』の撮影が 23 sol ぶりに行われている。 Sol 8 とほぼ同じ角度から撮影されており、この間の変化を観察しようとしたものと思われる。 画像は上下が逆になっている。 一見して分かる違いは、脚についた斑点状の汚れのようなものが白くなっていることである。


#7803 (Sol 31 13:49)
露光時間 10.0

#7983 (Sol 31 14:37)
露光時間 117.5
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona / Max Planck Institute

2008年6月26日木曜日

氷の海

さて、土壌の下の数 cm というすごく浅いところに氷があったということで驚いたわけだけど、 そもそも凍土が存在してるってのはどっからきたのか? おそらく、火星の歩みに関するいろんな理論・学説は入り乱れているのだろうけど、 その辺はよく知らない。 とりあえずよく聞きすぐに持ち出される間接的な証拠は『マーズ・オデッセイ』のガンマ線分光計による結果。

宇宙空間には宇宙線がたくさん飛び交っている。 人間の作った加速器など目じゃないほど高いエネルギーの宇宙線も。 こいつが火星に当たることで、なんだかんだいろんな段階をへて 最終的に原子核を特定できるスペクトルをもつガンマ線を出す場合がある。 そういうことにしとこう。 こうして出て来るガンマ線のスペクトルを軌道から根気よく観察して 地表だけでなく地下にある原子核の種類も調べられるんだそうだ。

このガンマ線分光計 (GRS) が 2001 年に打ち上げられたオデッセイにも搭載された。 『2001 マーズ・オデッセイ』というベタな正式名称を与えられたこの探査機は、 いまでも元気に火星を回り続け、フェニックスの中継衛星にもなってくれている。 左 3 枚の図の一番上は 2004 年にそんな分析で水素原子核の分布を調べて水の量を推定した画像。 きれい過ぎるぐらいだけど、 南北の緯度だいたい 50° ぐらいより端ではかなりはっきり地下が水分だらけってことになってる。 単位が多分相対的なもので、どのくらいかがわからないのだけど、 凍った土じゃなくて、土った氷だってぐらい。 他にも、故『マーズ・グローバル・サーベイヤー』がポリゴンっぽい地形をそれ以前に見つけてたし、 他の探査機もいろいろそれらしきものが。 ちなみにこの GRS もアリゾナ大学で運営されてて、その責任者だった Boynton 氏は、 フェニックスのトラブル続きの TEGA の責任者でもある。 トゥーソンの地で話はいろいろとつながっているのだ。

ともかく、水素なんてあちこちありそうで水とは限んないんじゃ、 と素人は懐疑的に突っ込みたくなるのだけど、 フェニックスの見た消えた小さな白い塊はいやそんなことはない火星は氷に満ち溢れているのだ! と宗旨替えもいとわない発見だった。 いやまったく信じていなかったわけじゃないけど。

もしあのあたりの地下が実は氷だらけで、その上に申し訳程度にチリが積もった土が被っているのだとしたらどうだろう? 大量の氷が大気と平衡状態になるにはあんな薄い土壌ぐらいじゃだめで、 どんどん昇華して大気に水をかなり明け渡してしまいそうな気がする。 しかし夜の飽和量が昼よりずっと小さいので、わりとそうでもないみたい。 昼と夜とで土壌は水分のわずかな呼吸を繰り返すだけで、 覆った土壌の厚さは直感的に心配するほど問題でないのかもしれない。

ところで、火星の地形は不思議で、北半球が高さが低くて比較的平らでクレーターも少ないのに対して、 南半球は巨大クレーターのヘラス盆地を除けば標高が高くでこぼこで山がち。 2 番目の画像のグローバル・サーベイヤーの高度計が作った地図をみるとそれがよくわかる。 この非対称性は不思議だけど、地球の海の平らなプレートと陸のプレートの違いを思わせもする。 火星人は地球の太平洋を見たら、なんだこの平らな窪地って不思議に思うかもしれない。 そう北半球は海っぽいっていうふうに話を持っていこうとしている。

フェニックス君の居場所はこれらの画像の黄色い丸。 ちょうどオリンポス山をずっと北にいった方で、水素たっぷりの海のような地域にどっぷりつかったところ。 そこを拡大したのが 3 番目の画像。 グリーン・バレー (Green Valley) という谷とは呼べないような平らで幅の広いくぼ地の一角で、 ここはポリゴンに覆われているだけでなく、 石も非常に少ない地域であることが着陸前にマーズ・リコネサンス・オービターが調べていた。 もし火星に氷の海が広がっているのならまさにここしかないというような場所。 いや氷の海だ。 きっとそうに違いない。 かつて液体であった (かもしれない) 海が氷に姿を変えて残っているという説は本当だったのだぁ。 それじゃあ、南半球でも水分が同じぐらいたくさんあることになっているのはなぜ?ってきかれるとまったく困るけどね。 海はいいよね。 広いしね。

* * *

フェニックスの TEGA, MECA の顕微鏡に次いで主要な分析装置としては最後のものとなる MECA の WCL (湿式化学実験装置) に『白雪姫』方面からのサンプルが投入されたみたいだ。 TEGA の最初のサンプルの質量分析の結果もそろそろだろう。 残った土は TEGA (加熱器・質量分析器) の 2 回目の分析に回されるのが当初の予定だったはずだけど、 今朝のプレス・リリースによればいくらか TEGA が問題を抱えているようで、 どうするか検討中ということみたいだ。

確かに sol 24 のロー・イメージには TEGA の右から 2 番目の口が土の重みでうまく開いていないかに見える画像 (raw image, アリゾナ大学サイト) があったのだけど、 「かに見える」のではなくてどうもそうだったよう。

「われわれがテスト装置でここ数日に行ったテストでは、この状態のドアの開き方でも ロボット・アームは疑似的な火星の土を供給できた。」 「われわれは、氷のサンプルを受け入れるために広く開けることのできるセルはとっておきたいと計画している。」 TEGA の主任科学者 (lead scientist) でトゥーソンのアリゾナ大学の William Boynton は語っている。

昨日のエントリで紹介したブログ氏が、 科学チームがトゥーソンに戻って検討している問題とはこのことだったんだろう。 他にも最初の投入のときに振動をさせすぎたせいで、 オーブン付近の回路がショートしているかもなんて心配もしているみたい。 TEGA は最初の週に加熱のためのフィラメントがひとつショートしていたから、 よけいに気がかりなんだろう。 なかなか大変だなあ。

* * *

さて、今日の『ネイチャー』には火星北部の低地の成因をテクトニクス説に対抗して巨大インパクトだったとする MIT の研究者の説が載っているらしいのだが。 ふーん。

Sol 30 のフェニックス

Sol 30 は日本時間 2008/06/25 (水) 11:36 ~ 06/26 (木) 12:16 (米太平洋夏時間, PDT 06/24 19:36 ~ 06/25 20:16) ぐらい。 火星北半球の夏至、すなわち太陽黄経 (Ls)、火星の春分点からの太陽の角度が 90° を越える。

太陽黄経 (Ls) 90°, 太陽と地球との間の角度 28°.9, 地球までの距離 3.11 億 km, 太陽高度 3°.4〜47°.0

Twitter 翻訳

(Twitter / MarsPhoenix より。 火星現地時間はおおよそ)

Sol 30 02:35 (06/25 14:16 JST, 06/24 22:16 PDT)
@monzitrek そう! 今日は火星での Sol 30 (今現在は朝の 2:30 ぐらい)。 Sol 30/6 月 25 日は火星の夏至になる。 夏おめでとう!
Sol 30 02:44 (14:25 JST, 22:25 PDT)
もちろん、火星の北極圏内での夏は白夜 (太陽がずっと地平線低くにいる) ってこと。 温度は −20 から −120°F (−30 から −85°C)。
Sol 30 15:18 (06/26 03:20 JST, 06/25 11:20 PDT)
素敵な求人案内が http://is.gd/FN8 に。 すこし旅をしなきゃいけない :D きっと将来いつの日にか、だれかがぼくを訪ねてくれるだろうな。

ロー・イメージより

(Sol 30 Raw Images より後日作成)

WCL (湿式化学実験装置) への初のサンプル供給が行われた。 上 2 つは供給中の画像と思われ、左右でそんなに違いが分からないけれど、 下側の WCL のファネル (とその周囲) に振りかけられている。 下段の左の画像は空になったスコップ。 右はこのサンプルが採掘された『白雪姫 3』を上から見た画像。 ごく表層のサンプルであることがわかる。 いずれもロボット・アーム・カメラが撮影したもの。


#7591 (Sol 30 12:29)

#7587 (Sol 30 12:45)

#7603 (Sol 30 12:49)

#7596 (Sol 30 12:53)
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona / Max Planck Institute

2008年6月25日水曜日

夏至の日に

Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona / Texas A&M

WCL (湿式化学実験装置) へのサンプル投入は今日 (Sol 30) 行われてるみたいだ。 その後まだ土が残ってるなら、 再び TEGA へのサンプル投入ってことになるのかもしれない。 待ち望んでる氷のサンプル収集はさらにその後になりそう。

アリゾナ大学の公式ページには、スタッフのブログがあって、かなり散発的だけど、 ミッションの責任者や技術者から学生まで様々なスタッフが地球での様子を伝えてくれてる。

氷の発見以降 3 つほどエントリが更新されているので 2 つばかり抜き書き。

Ice is Nice!!!!

Patrick Woida (シニア・エンジニア) 2008/06/20

さて、数週間に渡って『白い物体』について議論してきて、 ついに『我々が用心深くも楽観的になれば氷であるが、塩であるかもしれない未知の白い物質』を 『氷』であってそれ以外のものではありえないって呼ぶことができるようになった。

いままで「いますぐあの白いヤツをヤスリ (ドリル) にかけ [てサンプル採取し] よう」 って紙を背中に張り付けてきた連中もいた!

もちろん、この物質を TEGA に入れることが本当に必要なのは確か、 だけど僕個人としては、これが氷だって言えるってことがずっと幸せだ。

「...ええ、氷のように見えますし、氷のように振る舞いますし、 氷のように硬いですし、それが氷であるということは妥当なことで、よってそれはおそらく...」 ってのに注がれるたくさんのあきれた眼差し。

科学者および技術者として、僕らは正確でありたいし、人々をミスリードしたくない。 ある日『アイスキューブ』をみつけ、別の日にはなくなってしまったことは、 まさしくことはっきりさせてくれた。 今は、僕らが探してきたものを見つけた、 フェニックスとそのチームにとっての本当に素晴らしい日だって確信できる。

だれが書いたのかリンク先の漫画もかわいい。 SSI にはちゃんと口もある。

次は長いので少し抜粋して。 SSI カメラのチームの人 (たぶんまだ院生かな) なので、 SSI でのスペクトルの調査が氷という結論に果たした役割についても解説してくれている。 右上の写真が文中に出てくる「キャルターゲット」。 フェニックスの一人称擬人化はお約束。

Behind the Water Ice Decision

Keri Bean (SSI チーム・アシスタント) 2008/06/23

たくさんの人たちがぼくに本当に的をえた質問をしてきてる。 例えば、「どうしてドライアイスじゃなくって、水の氷だってわかるの?」とか 「なんで TEGA で水が見つからなかったの?」みたいに。 どう作業が行われたかを説明してから訊かれた質問いくつかに答えるのに、 少しだけ手間がかかちゃうかも。

水の氷だって最初に思えたのは、 ロボット・アーム・カメラ (RAC) がぼくの下を覗いたときだった。 何かのすごく大きな模様を見つけたんだ。 ぼくらが言えることといったら、それが白くて太陽の光ですごく輝いてたってことだけ。 仲間の何人かはすぐに氷だって結論に飛びついた。 でも他の多くはもっと証拠を欲しがった。

そして 2 番目の大きな発見は、ぼくのロボット・アーム (RA) で掘り始めたとき、 溝の中に白い筋がはっきり見えたこと。 そこでさらに何人かの仲間が氷だって結論に飛びついた。 でも依然として多くがもっと証拠を欲しがった。 次にぼくは掘ったばかりの溝の隣に別の溝を掘った。 そしたらさらに白い物質が現れた。 そしてぼくが掘るたびにどんどんと見えてくる! 仲間たちがぼくに指令したことは、白いものをもっと表に出せってことだった。 それでぼくは、3 つの溝をつなげてもう少し深く掘ってみた。 白いものがさらに見えてきた。 このときには仲間の半分があれは氷だって、もう半分は塩の一種じゃないかって言っていた。 多くの人が懐疑的だったのは、 ぼくのミッション全体が順調に進み過ぎてるのが信じられなかったから。

その次にぼくがしたことは、 多重スペクトル・スポット (multispectrum spot) って呼ばれている写真を撮ること。 ぼくの CCD カメラの前にはフィルターの車輪がついてる。 たくさんのフィルターがあって、可視光と赤外光の範囲、全種類の波長で見ることができる。 一つの画像でこのフィルター全部を組み合わせたら、 その画像のある点から反射してきているのがどんな光だか教えてくれるスペクトルを作れるんだ。 白い点の写真を撮って、ぼくらがちゃんと測定できてることを確かめるために キャリブレーション・ターゲット (calibration target)、 縮めてキャルターゲット (caltarget)、の多重スペクトル・スポットもやった。 こっちは発射の前にあらかじめテストされてたから、 どんなものが見えるはずかわかってて、おかげでそのデータをもとに他の画像を調整できる。 白いもののスポットをとってみたら、それは水のスペクトルととってもよく似ていた。 スペクトルの青い部分ではグラフから外れてた。 これは白いものが水の氷だっていう、いくらかましな証拠だった。

塩説に最後のとどめを刺したのは、 何日かたって溝の中を見てみたらいくつかカタマリが消えちゃってたとき。 消えちゃうためには、それが昇華した、つまり固体が液体を経ずに気体になったのに間違いなかった。 塩はそんなことしない。

何人かには「なぜ TEGA が焼いたときには氷が見つからなかったの?」って尋ねられた。 TEGA のオーブンを一杯にするときの問題のせいで、 何 sol の間かサンプルは太陽のもとに置かれてたんだ。 それがさらされてたせいでドアが閉じられる前に水の氷は昇華してしまったんだろうな。 技術者たちは、TEGA の中にいくらかの水の氷を何とか取り入れるために、 トゥーソンに戻って、ぼくのテスト・モデルで今、 サンプルの供給の新しい方法をテストしているところ。

「どうしてドライアイスじゃないの?」とも訊かれる。 そもそもドライアイスはこの地域にはまだ今は存在できないんだ。 それは単純にそこまでは寒くないから。 地球ではドライアイスが固体であるためには、 摂氏 −78.5 度 (華氏 −109 度) 以下じゃないといけない。 これは火星では、大気圧が小さいからさらに低い温度になる。 ぼくは、これまでドライアイスに必要なほどの温度には単に出会ってないのさ。

「そんな風に振る舞うような、私たちがまだ出会ったことのない何かの化学物質じゃないの?」 と何人か。 ぼくらが見たこともないような何かの物質であるってことは確かに可能であるかもしれないけど、 証拠はその仮説とは正反対のもの。 もしその物質が氷のように見えて氷のように振る舞うんだとしたら、それはたぶん水の氷。

氷の部分のスペクトル、ぜひ見てみたいものだ。 素人じゃまともな調整はできないけど、下の 3 つの非公式画像は sol 28 の溝の氷の画像で、 左上が通常の R, G, B フィルターに相当するものでそれなりに独自合成したもの。 左下と右下は近赤外領域のフィルターのうち 6 枚を 3 枚ずつ R, G, B に割り当てたもの。 左下の方がいくらか短い波長のもので、右下がやや長い波長のもの。 何も考えずいい加減に遊んでみただけのものだけど、これだけでもフィルターごとの反応の微妙な違いが見えてくるから面白い。 どの画像にもある中心部の白い部分と黒い部分の違いも気になるけど、 右下では (グレーに調整された地面と比較して) 中心部が一番長い 1000 nm ほどの波長をより吸収しているみたいだ。 単に、これは長い波長ほど吸収しているからかもしれない。 左下はもっと変で、地面の方も含めて色の違う領域に 2 つに分かれている。 これも太陽の反射具合とかそういうものかも。 いずれももちろん疑似カラー。

水蒸気は代表的な温室効果ガスだし、水の中でも赤い光が透過できないので、 おそらく全体としては氷でも長い波長を通しにくい傾向があるんだろう。 離れたところの物質を調べるのに赤外線の反射光のスペクトルを分析するというやり方は、 天文学でもよく見かけるけど、 分子の種類とかで決まる光を鋭く吸収する特定の波長があって、それで物質が特定できる。 フィルターの波長は何かの意図があって選ばれたはずだと思うけれど、 1000 nm 以下で氷が特に吸収するスペクトルはあるのかなあ。

それから二酸化炭素の相図は、 フリーズ・ドライを参照。 火星の気圧では −120°C よりももっと下じゃないとドライアイスは安定じゃない。 対して、今の季節の最低気温は −80°C ぐらい。 おそらく冬にはちょうどこの二酸化炭素の氷点まで下がって大気が凍り付き始める。 大気がほぼ二酸化炭素なのだから、何日かでもドライアイスが存在できるという環境は、 火星では劇的な事態を意味することになってしまう。 実際、どこで見たかは忘れたけれど、冬に気圧は 2/3 ぐらいにまで下がるともきく。

そして今日は夏至だ — 火星では。 もう一つのエントリ (Phoenix Phestival, 2008/06/21) でそのことに触れられている。 地球の夏至と 4 日違いでシンクロしたわけだ。 フェニックスがいるのは北極圏なので昼が一番長いというより一日中昼なのだけど。 火星は自転周期も地球と 3 % の差しかないが、自転軸の傾きも地球に近くて 25°.2 ぐらい (地球は 23°.4)。 フェニックスのいるところでは今日は 12:00 に、47°ぐらいまで太陽が昇り、真夜中でも 3° ぐらいだかに北の空に居つづけているはずだ。 これからは徐々に太陽が低くなって暗闇とドライアイスの冬が近づいて来るけれど、 残り 2 ヶ月、まだまだいくつも大きな発見が待ち構えているだろう。

Sol 29 のフェニックス

Sol 29 は日本時間 2008/06/24 (火) 10:57 ~ 06/25 (水) 11:36 (米太平洋夏時間, PDT 06/23 18:57 ~ 06/24 19:36) ぐらい。

太陽黄経 Ls = 90°, 太陽と地球との間の角度 29°.1, 地球までの距離 3.09 億 km, 太陽高度 3°.4〜47°.0

Twitter 翻訳

(Twitter / MarsPhoenix より。 火星現地時間はおおよそ)

Sol 29 01:11 (06/24 12:10 JST, 06/23 20:10 PDT)
@: 今はね、午前 1 時ぐらい、 Sol 29 の始まり。 きのソル (yestersol) は湿式化学実験装置 (wet chem lab)* がサンプルを受け取れるように準備してすごした。 土はすぐに入れるよ。
[* WCL, MECA の一部で土壌を水に溶かして酸化還元電位などを測定する。 wikipedia]
Sol 29 01:15 (12:14 JST, 20:14 PDT)
この化学実験装置を準備するのに、 (地球から持ってきた) 氷ちょっとを溶かさなきゃなんなかった。 実験でぼくのビーカーの水になるんだ。 準備たいへん。
Sol 29 01:34 (12:33 JST, 20:33 PDT)
@redhitman ぼくの掘削場所に氷あったのはすごいこと。 でも科学チームはいま氷の隣の土に何があるのか本当に知りたがってる。 ここに何か有機物質があるかな?
Sol 29 03:35 (14:38 JST, 22:38 PDT)
@aufrank うん、先週 TEGA [wikipedia] がサンプルを焼いたよ。 結果は只今解析中。 もう 2~3 日で何か報告できればいいな。
Sol 29 04:42 (15:47 JST, 23:47 PDT)
@Medros, @JuicyLizard, @Spatacoli 水は殺菌されて容器に密閉されてたんだ。 4 回の湿式化学実験のために 4 つの容器があるよ。
Sol 29 04:44 (15:49 JST, 23:49 PDT)
@jcsmith, @daveTHERIOcom それぞれ容器には、小さな箱各々に水/氷が 25 ミリリットルあるんだ。 温度はね、旅の間中 (氷点以下になってるように) 監視されてた。

ロー・イメージより

(Sol 29 Raw Images より後日作成)

スコップは WCL の上で待機中。 『白雪姫』の掘削溝のそこにある白い模様は、『ドードー=ゴルディロックス』の氷の層の用に輝くほど明るくはないものの、ロー・イメージでも短波長の画像で顕著にそれとわかる。 左が 672 nm を中心波長とするフィルターの画像で右が 445 nm の画像。


#7442 (Sol 29 10:11)
フィルター L1 (672 nm)

#7445 (Sol 29 10:12)
フィルター L2 (445 nm)
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona

2008年6月24日火曜日

火星カクテルの味

Courtesy NASA / JPL-Caltech

あれ? Sol 27 はいずこ? ロー・イメージがまたやってこなかった。 火星では顕微鏡と TEGA への 2 度目のサンプル投入や MECA の “Wet Chemistry Laboratory” (WCL) への初サンプル投入など、 本格的な分析にいろいろと取りかかっているはずなんだけど。 Sol 28 になって WCL 上にアームが移動したかの様子などが上がっているので (右図、DVD に土が…)、 sol 27 は作業は行われなかったのだろうか? それともコンピュータの問題が長引いてる? 単に日曜だったから火星込みで休みって感じもしないではないし、 それはちょっとありえない気もしないでもない。 月曜 (23 日) 付けのプレス・リリースは日本時間で 24 日朝発表されたけど、 その辺はスルーの様子。

WCL が 4 つ

さて、これによれば sol 29 に光学顕微鏡による観察が行われて、 この日か sol 30 に TEGA と WCL による分析が始まるとしてある。 写真にもある WCL (湿式化学実験装置、でいいのかな) とは、 地球から持っていった水を土壌に加えて化学的な分析を行うもので、 顕微鏡の大きな箱の隣に 4 つ小さな容器として付いてる。 どちらも MECA と呼ばれる装置の一部。

よく考えれば、地球の水も今の火星の環境じゃ凍ってしまうし、 そもそも 8 hPa の大気圧じゃほとんど液体の水になってはくれないので、 火星で水に何か溶かそうとすれば加圧した環境で実験しなきゃいけない。 氷となってた溶媒を溶かす命令が sol 28 に送られているよう。

WCL の土壌と水を入れるビーカー (右上の写真) の脇にはなんか 26 ばかりいろいろ電極が並んでて、 酸化還元電位や、pH、イオン選択電極でのいろんな種類のイオン濃度などを測定するそう。 この手の化学的実験に詳しい人ならセンサーの名前とかだけで、 どんなことやって何がわかるかだいたいピンとくるのだろうけど、 こっちのアンテナにはさっぱりだ。 お題目は、これによって生命の生存にとって土壌が適切な環境にあるかどうかを調べることだとしている。 TEGA が焼いて嗅いでみる分析なら、こちらは舐めてみるっていうところと考えて納得しておこう。

かつてのバイキング計画のときには、 微生物のような生命がいるかどうかもう少し直接的な目標を掲げて、 物質の交換が行われてるかどうかを調べたりなどややこしい野心的な装置を積んでいたはずだけど、 結局あいまいな感じの結論だった。 それに比べるとずっとオーソドックスな感じ。

* * *

19 日の「氷の発見」に関してだれもが感じる疑問については Wired が FAQ を作っている。

よい仕事してるね。 生命の存在が存在の条件になったのは (物価を考えると 1/10 の) 予算の差か。

Sol 28 のフェニックス

Sol 28 は日本時間 2008/06/23 (月) 10:17 ~ 06/24 (火) 10:57 (米太平洋夏時間, PDT 06/22 18:17 〜 06/23 18:57) ぐらい。

太陽黄経 (Ls) 89°, 太陽と地球との間の角度 29°.2, 地球までの距離 3.08 億 km, 太陽高度 3°.4〜47°.0

今日も中の人お休み。 向こうは日曜にかかってたからかなー?

昨日は、翻訳載っけていいかい? いいよー! ぐらいののりで MarsPhoenix からダイレクト・メッセージを頂戴した。 思い切り事後承諾になるけど。

ロー・イメージより

(Sol 28 Raw Images より後日作成)

『ドードー=ゴルディロックス』の撮影では、 層の白い部分がかなり黒く変色してきたように思える (左)。 スコップは、顕微鏡への土壌投入後、 残ったサンプルを湿式化学実験装置 (WCL) に投入するため、WCL の上へ移動している (右)。


#7212 (Sol 28 10:29)

#7306 (Sol 28 15:00)
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona

2008年6月23日月曜日

Sol 27 のフェニックス

Sol 27 は日本時間 2008/06/22 (日) 09:38 ~ 06/23 (月) 10:17 (米太平洋夏時間, PDT 06/21 17:38 ~ 06/22 18:17) ぐらい。

太陽黄経 (Ls) 89°, 太陽と地球との間の角度 29°.4, 地球までの距離 3.07 億 km, 太陽高度 3°.4〜47°.0

Twitter 翻訳

(Twitter / MarsPhoenix より。 火星現地時間はおおよそ)

Sol 27 00:03 (06/22 09:41 JST, 06/21 17:41 PDT)
今日は顕微鏡にさらに土を運んだよ。 後で 2 つの別の装置 MECA と TEGA に運ぶためにスコップにはまだいくらか土が残ってる。
Sol 27 16:17 (06/23 02:22 JST, 06/22 10:22 PDT)
@pplpwrd 科学者たちは、最初のサンプルの TEGA の結果について調べてる。 しっかりした結果を得るための、たくさん分析がある何段階もの過程なんだ。
Sol 27 16:38 (02:43 JST, 10:43 PDT)
ぼくは RAD 6000 スペース・コンピュータを使ってる。 OS は Vx-Works。 C で書かれてて、オープン・ソースじゃない。 スペックの一部についてはこっち。 http://is.gd/DkPhttp://is.gd/Dl6

ロー・イメージより

Sol 27 分のロー・イメージは届いていない。 これについて特にプレス・リリースでは触れられていない。

追記 惑星協会の Emily Lakdawalla 氏のブログ (2008/06/24 付けエントリ) では、 “The spacecraft went into safe mode and had no operations on sol 27, but they recovered fast and were back to normal on sol 28” とのこと。 フェニックスがセーフ・モードに入ってこの日は作業が行えなかったようだ。

2008年6月22日日曜日

フェニックスは色付きの夢をみるか?

This image is in Wikimedia Commons, uploaded from a NASA site.

フェニックスでは今 SSI と RAC という 2 つのカメラが稼動している。 RAC つまり Robotic Arm Camera は、その名の通りロボット・アームの先に付いたカメラだ。 SSI の方がフェニックスのメインの眼となるステレオ、つまり右眼と左眼をもつカメラ。 地面からおよそ 2 m 高さで周囲を見渡している。 ちなみに SSI には愛らしいまつ毛と口がある。 いや、実際には写真を見ていると、 眼が縦長のものや頭が三角のものなど何種類かバージョンがあるようで、 はたして火星のフェニックス君がこんな風に微笑んでいるバージョンかはわからないけど。 さてこの SSI、白黒写真ばかり撮って味気ないというか色気ないように思えるかもしれない。 実はそんなことはない。 実際には人間以上にど派手な色が見えている、はずなのだ。

Courtesy University of Arizona

両方の眼の前にはそれぞれ 12 色、計 22 種類の「フィルター」つまり「色メガネ」があって、 SSI はこれを切り替えながらいろんな写真を撮っている (左の写真がフィルター)。 一部は大気やデッキの撮影専用だが、少なくとも 13 種類が地表撮影用だ。 ロー・イメージを見ていると、 同じ場所の一見同じ風な写真を続けて 10 枚以上も撮っていたりするけど、 実際にはそれぞれこのフィルターが異なっているのだ。 フェニックスの SSI がどんなフィルターを積んでいるかは、 コンファレンスの概要らしいこれでわかる。

それで、なんで RGB のカラーではなくこんなフィルターなのか?

しかしカラーって何のこと? 世界の様々なものに色は「付いて」いるの? 赤いりんごや赤い火星は、それそのものが赤いの? 色は物理的性質の一部をある程度反映したものではあるかもしれないが、 実際にはそんなに単純なものじゃない。 単純だったら、ゲーテは偉大な作家に留まり続けニュートンに喧嘩を売ったりしなかったろうし、 茂木健一郎は物理学に留まり続けテレビに出ることもなかったろう。 色は物理ごときで理解できる生やさしい話じゃなく、 少なくとも生理学や心理学や哲学の関わる深い問題でもあるのだ。

ヒトの網膜には 3 種類の錐体視細胞があって、 少なくとも光のスペクトルに対してそれぞれ少々異なった反応をする。 そんなわけで、コンピュータのモニタもテレビもデジカメも RGB (赤緑青) の 3 原色の 3 次元色空間で色を表そうとする。 3 という数字は人間の網膜のせいだ。 他に理由はない。 サル (含ヒト) 以外のほとんどの哺乳類は、こんなに色は見えないし、 逆に哺乳類以外の鳥やトカゲや魚たちは、 はるかに複雑な色の世界を体験していると考える理由がある。 つまり、後者はスペクトルに違った反応をする視細胞が 4 つ以上あり 4 次元以上の色空間を持つのだ。 鳥など 7 つぐらい持つものもいるという人もいる。 人間用のデジカメ・カラー写真など真黒いカラスにさえも色あせた写真に過ぎないはず。 そして、不死鳥フェニックスは 13 種類のフィルターのおかげで、 13 次元の空間で光を表すことができる。 (Sol 9 のフェニックスのロー・イメージも参照) どうみてもフェニックス圧勝である。

ただ、これは話の半分以下、多くとも 1/3 ぐらいでしかない。 2/3 にするためには、ヒトにしたって RGB の空間なんぞで色は決まっていないことを知る必要がある。 優れた画家は、昔から絵の具で色は決まりはしないことを理解していた。 太陽光の元でみる白い紙と蛍光灯の元で見る白い紙は、 物理的に同じ光のスペクトルの RGB 成分を持ちはしない。 われわれがどっちも白く見えるとしてもである。 白でなくても同じことだ。 同じ色が同じ RGB 値をもつとは限らないし、逆もそう。 似たような話は、 「色の恒常性」の問題やそれにかかわる錯視現象としてあちこちのサイトで面白く紹介されている。

ポラロイドの創業者エドウィン・ランド (Edwin H. Land) は、 その昔、色の恒常性について悩んだり、心理実験をしたりしたあげくにレティネックス (retinex) 理論と呼ばれる理論を作り出した。 これは簡単に言うと同じ色であるかを決めるのに RGB の単純な大きさじゃなく、 照明の当たり具合を考慮し、対象の反射率を推定して決まっているとするものだ (たぶんだいたいは)。 とはいえ、そんな照明の本当の当たり具合なんか画像だけから形式的に求められるものじゃない。 脳みそが、 対象にどんな風に光が当たっているかまで何らかの方法で考えないと推定できるものじゃないはず。 網膜 (retina) + (大脳) 皮質 (cortex) で retinex なのである。

これが正しいとすれば色の同じさ加減の判断は、画像の意味を理解できないコンピュータ風情には、 本来は不可能なこととなる。 しかし、デジタル画像でこれを模倣するレティネックス・フィルターというものは存在する。 詳しいアルゴリズムは知らないのだけど、どうやら周辺の明るさから照明光を推定しているようだ。 そして上のような出自を考えるとちょっと奇妙なことだけど、 このレティネックス風画像処理については NASA の研究者も研究していて、 この手の分野でも広く使われているようだ。

下の 3 つの画像のうち真ん中はそんなフィルターのひとつを用いて、 『ドードー=ゴルディロックス』の溝の影の部分で氷のかけらが消えていくさまを示した非公式合成画像 (Sol 22 と 23 の画像がフェニックスのシステムの障害で得られていないのが残念だ)。 上のものが処理前のもの。 氷のかけらは、溝の左端に転がり込んでいる。 この中段の画像では火星の赤はすっかり色あせて、影の中の様子がフィルターをかける前よりよく分かるようになっている。 一番下は明るさだけにレティネックスを適用したもの。 オリジナルの写真のコントラストが強すぎる場合、公式写真の中にもこんな感じの処理を施したものがあるのかもしれない。

さて、中段のあまりにも火星っぽくない色は少し極端ではあるけれど、 案外、あなたが火星に行って火星の赤い光の環境の中に放り出されたら、 実は中段のように見えてしまうことになるのかもしれない。 ちょうどサングラスの色にぼくらがやがて順応してしまうように。 と、無理矢理、火星の問題と結びつけといて終わり。

あ、最後の 1/3 は、でもそれはあなたが火星に行って実際に経験するまで結局分からないってこと。


レティネックスなし

レティネックス処理

明度にのみレティネックス

* * *

Sol 26 のフェニックスは、新しく採取した土を再び光学顕微鏡にふりかけている。 プレス・リリースではどこから採った土なのかわからなかったけど、 ロー・イメージをみると、今度は東側の『白雪姫』 (Snow White) の隣からのもののようだ。 「ポリゴン」の溝に近い前のサンプルと、ポリゴン中央のもっと高いところのサンプルで、 土の凝集具合などを比較してみることになるのだろう。 顕微鏡映像はそろそろ地球に到着しているのかもしれない。 プレスリリースはこちら。

スコップにはまだ土が残っていて、 今頃 TEGA への再供給と “Wet Chemistry Laboratory” (WCL, 湿式化学実験装置) と呼ばれるはじめての装置に供給したと思われる。 WCL は顕微鏡と同様 MECA の一部で、 顕微鏡の大きな箱の横に引っ付いている 4 つのビーカーがそれ。 サンプルに水を加えて、溶けてきたイオンの濃度や pH なんかを測定する。

Sol 26 のフェニックス

Sol 26 は日本時間 2008/06/21 (土) 08:58 ~ 06/22 (日) 09:38 (米太平洋夏時間, PDT 06/20 16:58 ~ 06/21 17:38) ぐらい。

太陽黄経 (Ls) 88°, 太陽と地球との間の角度 29°.5, 地球までの距離 3.06 億 km, 太陽高度 3°.4〜47°.0

Twitter 翻訳

(Twitter / MarsPhoenix より。 火星現地時間はおおよそ)

Sol 26 05:41 (06/21 14:48 JST, 06/20 22:48 PDT)
@bitchinmona ううん、その地球の写真撮ったのはぼくじゃない。 火星の軌道船たちが撮ったことあって、ぼくが一番好きなのがこれ http://tinyurl.com/36kkjj
Sol 26 23:55 (06/22 09:32 JST, 06/21 17:32 PDT)
@jimconn 蒸発 = 液体が気体になっちゃうとき (水は蒸発)。 昇華 = 固体が気体になっちゃうとき (氷が水蒸気に)。

ロー・イメージより

(Sol 26 Raw Images より後日作成)

『白雪姫』(Snow White) からのサンプルが振りかけ法によって顕微鏡に投入された。 左上はそのときのロボット・アーム・カメラ (RAC) によるの画像。 右上は同じく RAC がスコップの先端部の突起の土を撮影したもの。 『白雪姫』の溝の底には短い波長でいくらかおもしろい色の違いが見られるようだ (下)。


#7035 (Sol 26 11:20)

#7049 (Sol 26 11:45)
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona / Max Planck Institute

#7064 (Sol 26 10:31)
フィルター: R2 (445 nm)
Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona

Sol 19 から Sol 25 までのまとめ

できごと

Sol 025 日本時間 2008/06/20 (金) 08:18 ~ 06/21 (土) 08:58 ぐらい。
3 つ目のサンプルとして『白雪姫 1』の左隣に『白雪姫 3』が掘削され土壌が採取される。 このサンプルは『ロージー・レッド』(Rosy Red) と名づけられ、MECA [wikipedia] の光学顕微鏡 (OM)、湿式化学実験装置 (Wet Chemistry Laboratory, WCL) および TEGA の 2 度目のサンプルとなることが予定される。 また TEGA の最初のサンプルを投入した第 4 オーブンの隣の第 5 オーブンの蓋の開放が試みられるが、第 4 オーブンからあふれた土がじゃまをして十分に開放できないことが明らかとなる。
Sol 024 日本時間 2008/06/19 (木) 07:39 ~ 06/20 (金) 08:18 ぐらい。
『ドードー=ゴルディロックス』の観察が続けられる一方、『白雪姫』の右側が掘削される。 従来の『白雪姫』は『白雪姫 1』、新たな溝は『白雪姫 2』と呼ばれることになる。 『ドードー=ゴルディロックス』の観察では、sol 20 に認められていた白い物質のかけらが昇華して消失していることが確認され、塩であるという可能性が否定される。 翌火星日の始まりごろに行われた 6 月 19 日分会見で氷の発見として発表される [参照 フリーズ・ドライ]。 間接的証拠を元に高緯度地方の数 10 cm 程度の地下に存在するものとされていた氷の層の存在が、表層わずか数 cm のところで実際に確認されたこととなる。 一方で『白雪姫』の側の溝の底部には硬い層があり、ロボット・アームは自動的に掘削を中断している。 この層は『ドードー=ゴルディロックス』の氷の層より暗い。
Sol 023 日本時間 2008/06/18 (水) 06:59 ~ 06/19 (木) 07:39 ぐらい。
前日のデータ消失の問題を受けシステムのチェックするためにこの火星日の科学的調査はすべて休止される [参照 宵越しの絵はもたねえ]。 また、当面、画像はすべて当日に送るものとされる。
Sol 022 日本時間 2008/06/17 (火) 06:20 ~ 06/18 (水) 06:59 ぐらい。
新たな掘削地点として掘削可能域の右端に近いポリゴン中央部『不思議の国』(Wonderland) が選ばれ、深さ 2 cm の溝『白雪姫』(Snow White) が掘られる [参照 ポリゴン]。 この溝では周囲よりいくらか明るい部分が認められるものの、輝くような白い層は発見されない。 この火星日の画像データの一部は、翌日朝に転送するために夜間、不揮発性メモリに蓄えるはずだったが、より優先度の高いハウスキーピング・データのサイズが過大なものとなったため保存に失敗し消失する。
Sol 021 日本時間 2008/06/16 (月) 05:40 ~ 06/17 (火) 06:20 ぐらい。
『ドードー=ゴルディロックス』はそのまま観察が続けられる。 またデッキ下の『雪の女王』の撮影が行われる [参照 赤の女王?]。 この日までに TEGA [wikipedia] の 3 段階の加熱のうち第 2 段階 (35°C, 170°C) までが終わり、最終段階 (1000°C) の加熱が継続されている。 暫定的な途中経過としてサンプルからは水が検出されなかったことが報告される。
Sol 020 日本時間 2008/06/15 (日) 05:01 ~ 06/16 (月) 05:40 ぐらい。
『ドードー=ゴルディロックス』で若干追加の掘削が行われたとみられる。 白いかけらは溝の左下隅にいくつかころがっているのが認められる。
Sol 019 日本時間 2008/06/14 (土) 04:21 ~ 06/15 (日) 05:01 ぐらい。
白い物質の層が溝の中に確認されている『ドードー鳥』と『ゴルディロックス』の間の部分が新たに掘削され、全体が幅の広い溝『ドードー=ゴルディロックス』(Dodo-Goldilocks) となる。 『ゴルディロックス』は『三匹のくま』の主人公の「金髪の女の子」。 溝は深さ 7〜8 cm となり、幅が 22 cm、長さが 35 cm である。 溝は白い層のある右上が最も浅く、左下が最も深い。 この掘削によって溝の右上部分の白い層がより露出するとともに、白い物質のかけらが溝の中に確認される。

ロー・イメージ

プレス・リリース

(2008/06/14 〜 06/20, 日付は米太平洋夏時間, PDT, に基づく)