2008年7月10日木曜日

スケールの耐えがたい重さ

ドット欠けじゃない

1600×1200 ドットの大きなモニタを 30 台ばかり買ってきて、 広い部屋に 横一列にずらりと並べてみたと想像する。 画面と部屋を真っ暗にして、ただ左端のモニタに 1 ピクセルの小さな赤い点を打ち、 右端のモニタに 2×2 ピクセルの青い点を打ってみる。 青い点からどこか 1.5 cm ぐらいのところに 0.5 ピクセルのくすんだ点も想像してもいい。 左が火星で、右が地球 (そのわきは月)。 その間の空間にめぼしいものは他に何もない。 今現在、「すぐ隣の惑星」という 6 文字の言葉に対応しているスケールは実際にはこれだけのものだ。

2 つの点をじっとながめていれば、 点が数分ごとに 1 ピクセルずつ (実際には秒速何十 km という猛烈な速度で) 移動しているのがわかるだろう。 点はそれぞれの慣性に従って一直線にそれぞれの道を歩もうとする。 ところが天井よりはるか上、モニタを十数台ばかり積み上げたところに、 直径 5〜6 cm はあろうかという巨大で熱い水素ガスのかたまりがある。 その輝きは最大の輝度でモニタを光らせたところでまったく足りない。 それが及ぼす重力という謎の力のせいで 2 つの点の筋道はねじれ、 それぞれ 1 年と 1.9 年という時間をかけて元のところに戻ってくる。 軌道が曲がっていくことはボールで遊ぶ子供ならみんな知っているが、 なぜそうなるのかは究極的にはどんな物理学者も知らない。 どのくらい曲がるだろうか予測はできる。 そんなことにおかまいなく、 ほとんど重力のみが支配するこの間隙の中で 2 つの点はこの単純な営みを数十億年続けている。

私たちの日常の知識やニュースほぼすべては右の青い点に関わっていて、 フィードの長いリストのように消費されていく。 時折、赤い点やその他のところのニュースがその一行をかざる。 こうした知識や言葉はいろんな意味でのスケールを歪めるのが仕事のようなもので、 それによって私たちは現実を理解したと思い込める。 私たちは「水金地火木…」という呪文を唱え、 「ああ、あの火星のことだね」と勘違いして日常を続けられる。 ありがたいことだ。 しかし、このすぐ隣の惑星でさえ、その現実を言葉で表したつもりにはなれても、 本当の意味で肌で感じるのは叶わぬことなのかもしれない。 モニタを並べて想像力を駆使してみても、 あるいは物理学者や天文学者であったとしても、それは同じことだろう。 それでも、このあまりにも重たいスケールの対比について、 こうして時折想像してみるのは悪くない。

地球は火星よりいくらかこの強大な太陽のそばにあり、重力の漏斗の「低い」位置にいて、 かつ、強く太陽の方へねじ曲がろうとする。 円を描いて回り続けたいのなら、より速く走らなければならない。 幸いそれにちょうど打ち勝つだけ地球の方が速い。 こうして 2 つの星の位置関係はずれていく。 100 万分の 1 ピクセルほどの大きさのフェニックスやその仲間の探査機は 2 年 2 ヶ月ごとに訪れるこのずれの絶妙な時期を捉え、 小さな街を一晩まかなえる程の膨大だが重力の力に対抗するにはギリギリのエネルギーを消費して、 地球から火星に「登る」ことができた。

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長い前置きだったが、これは右のありふれた図を見てもらう前に付け加えたいことだった。 この図は、今年の火星と地球の位置関係を遠くから太陽系をながめたものとして表したもの。 フェニックスの地表ミッションの火星日に従って、 sol 0 から sol 180 まで 45 sol ごとに位置をプロットしている。 スケールを想像するために実際の大きさに言及しておけば、 元画像では太陽–地球間の 1.5 億 km の距離が 128 ピクセルで表されているので、 太陽はおよそ 1 ピクセル、地球は 1/100 ピクセルほど、火星はそのさらに半分、月は地球の 1/3 ピクセル隣にある。

図の向きは、火星の自転軸の向きを基準にしてあって、赤い火星の軌道の真下が火星の北半球の夏至となる。 Ls として示された角度は火星の軌道にそった火星の位置、 もしくは火星から見た太陽の位置 (火心太陽黄経) を表すもので、 火星の季節を示す指標として日付がわりによく使われる。 地球の軌道上の位置もほぼ日付に対応するが、北半球の夏は右の方で冬は左の方だ。 習慣的に北から表したこの図では、どちらの惑星も反時計回りに回る。 地球の軌道は見た目太陽を中心とする円とほとんど区別がつかないが、火星の方ははっきりと歪んでいる。 なぜかは知らない。 ともかく火星の北半球の夏 (南半球の冬) は太陽から遠く、南半球の夏 (北半球の冬) は太陽に近い。 見かけの太陽は後者の方が 5 割近くも明るくなる。 おかげで南半球の夏冬は厳しく、北半球はそれより穏やかだ。

フェニックスの着陸した北極圏は今は夏で、おそらく水蒸気を大気に供給し続けている。 しかしやがて北半球が秋分、南半球が春分を過ぎて南極冠が暖かくなり始めると、 南極冠は激しい勢いで二酸化炭素を吐き出し始める。 逆に北極は −120°C を下回り、大気自体が凍りだし気圧は下がりドライアイスが積もりだす。 これはときに火星全体を覆う砂嵐を発生させ、激烈な冬の訪れを告げる。 左の図の 2 つの画像は、2001 年に発生したとりわけ大規模な砂嵐をハッブル望遠鏡が撮影したもので、 左は砂嵐の発生しかけの頃 (Ls 185° ぐらい)、右は全体が覆われたとき (Ls 227° ぐらい)。 黄色く霞がかったチリに覆われ地表の模様が見えなくなっている (両者の画像はほぼ同じ向き)。 規模は年によって違うようだが、大規模な嵐が発生すれば数日で火星全体を覆うんだそうだ。

今は太陽は昼に 47° まで登るほど高く、フェニックスにエネルギーを供給し続けている。 夜でもわずかに地平線上に留まる白夜だ。 エネルギーは十分で、探査機は夜間に気象観測を行えるほどのようだ。 しかし、当初のミッションの予定である 90 sol が終わる頃、 つまり 8 月の末には白夜が終わり、その後太陽の高度は急速に下がっていく。 それでも今の調子なら、探査機は観測を続けていくだろう。

終わりはいつ訪れるのだろうか。 図右上あたりの Ls 240° ともなれば逆に一日中太陽を拝むことはなくなり、 こうなれば探査機は活動のしようがなく、厚いドライアイスに覆われていくままとなる。 しかしその前に、sol 180 を少し過ぎたあたり、 12 月 6 日には地球と火星が太陽を挟んでほぼ反対側となる。 これは「合」 (ごう) と呼ばれる。 おそらくこの前後数週間は互いから見て太陽が近すぎるため火星との通信が行えなくなる。 このころ太陽の高度は真南でも 26° ぐらい、太陽電池に注ぐ日差しは現在の 6 割だ。 一日を通しての積算は、概算すると 1/3 程度になりそう。 このあたりの見通しについて述べられたものは目にしていないのでまったくの想像だが、 このあたりがフェニックスとのお別れとなるかもしれない。 合の後も通信が再開すれば、砂嵐に遭遇できるかもしれないが。 フェニックスのミッションがちょうど半分となった時に、終わりの話など縁起でもないな。

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アリゾナ大学のウェブ・サーバからロー・イメージをスクリプトで取ってきたりしているのだけど、 昨日は何度も中断していた。 サーバまた侵入されたりしてないだろうか。 取ってきた画像も、誰か処理プログラムに余計なことをしたのか EXIF のデータが乱れていたりする。 そんな具合で、情報が少ないのだけど、 Sol 42 に行われたと思われるブレードを使ったフェニックスの氷の掻き出しテストは、 この方法ではやっぱりあんまりうまくいっていなかったみたいだ。 スコップの裏の電動ヤスリの登場となったはずだけど、画像の情報からはどうなってるかまだはっきりしない。 TECP の接触テストは順調に終わったよう。 数日前にパノラマの欠けた部分の撮影もすべて終わったようで、 全体のカラーパノラマがおそらく週末にでも公開されるかもしれない。 ロー・データから独自に合成を頑張っちゃってる人もいるので、こっちが先になったりして。

そして、アリゾナは高校生で賑わっているよう。

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