2008年6月25日水曜日

夏至の日に

Courtesy NASA / JPL-Caltech / University of Arizona / Texas A&M

WCL (湿式化学実験装置) へのサンプル投入は今日 (Sol 30) 行われてるみたいだ。 その後まだ土が残ってるなら、 再び TEGA へのサンプル投入ってことになるのかもしれない。 待ち望んでる氷のサンプル収集はさらにその後になりそう。

アリゾナ大学の公式ページには、スタッフのブログがあって、かなり散発的だけど、 ミッションの責任者や技術者から学生まで様々なスタッフが地球での様子を伝えてくれてる。

氷の発見以降 3 つほどエントリが更新されているので 2 つばかり抜き書き。

Ice is Nice!!!!

Patrick Woida (シニア・エンジニア) 2008/06/20

さて、数週間に渡って『白い物体』について議論してきて、 ついに『我々が用心深くも楽観的になれば氷であるが、塩であるかもしれない未知の白い物質』を 『氷』であってそれ以外のものではありえないって呼ぶことができるようになった。

いままで「いますぐあの白いヤツをヤスリ (ドリル) にかけ [てサンプル採取し] よう」 って紙を背中に張り付けてきた連中もいた!

もちろん、この物質を TEGA に入れることが本当に必要なのは確か、 だけど僕個人としては、これが氷だって言えるってことがずっと幸せだ。

「...ええ、氷のように見えますし、氷のように振る舞いますし、 氷のように硬いですし、それが氷であるということは妥当なことで、よってそれはおそらく...」 ってのに注がれるたくさんのあきれた眼差し。

科学者および技術者として、僕らは正確でありたいし、人々をミスリードしたくない。 ある日『アイスキューブ』をみつけ、別の日にはなくなってしまったことは、 まさしくことはっきりさせてくれた。 今は、僕らが探してきたものを見つけた、 フェニックスとそのチームにとっての本当に素晴らしい日だって確信できる。

だれが書いたのかリンク先の漫画もかわいい。 SSI にはちゃんと口もある。

次は長いので少し抜粋して。 SSI カメラのチームの人 (たぶんまだ院生かな) なので、 SSI でのスペクトルの調査が氷という結論に果たした役割についても解説してくれている。 右上の写真が文中に出てくる「キャルターゲット」。 フェニックスの一人称擬人化はお約束。

Behind the Water Ice Decision

Keri Bean (SSI チーム・アシスタント) 2008/06/23

たくさんの人たちがぼくに本当に的をえた質問をしてきてる。 例えば、「どうしてドライアイスじゃなくって、水の氷だってわかるの?」とか 「なんで TEGA で水が見つからなかったの?」みたいに。 どう作業が行われたかを説明してから訊かれた質問いくつかに答えるのに、 少しだけ手間がかかちゃうかも。

水の氷だって最初に思えたのは、 ロボット・アーム・カメラ (RAC) がぼくの下を覗いたときだった。 何かのすごく大きな模様を見つけたんだ。 ぼくらが言えることといったら、それが白くて太陽の光ですごく輝いてたってことだけ。 仲間の何人かはすぐに氷だって結論に飛びついた。 でも他の多くはもっと証拠を欲しがった。

そして 2 番目の大きな発見は、ぼくのロボット・アーム (RA) で掘り始めたとき、 溝の中に白い筋がはっきり見えたこと。 そこでさらに何人かの仲間が氷だって結論に飛びついた。 でも依然として多くがもっと証拠を欲しがった。 次にぼくは掘ったばかりの溝の隣に別の溝を掘った。 そしたらさらに白い物質が現れた。 そしてぼくが掘るたびにどんどんと見えてくる! 仲間たちがぼくに指令したことは、白いものをもっと表に出せってことだった。 それでぼくは、3 つの溝をつなげてもう少し深く掘ってみた。 白いものがさらに見えてきた。 このときには仲間の半分があれは氷だって、もう半分は塩の一種じゃないかって言っていた。 多くの人が懐疑的だったのは、 ぼくのミッション全体が順調に進み過ぎてるのが信じられなかったから。

その次にぼくがしたことは、 多重スペクトル・スポット (multispectrum spot) って呼ばれている写真を撮ること。 ぼくの CCD カメラの前にはフィルターの車輪がついてる。 たくさんのフィルターがあって、可視光と赤外光の範囲、全種類の波長で見ることができる。 一つの画像でこのフィルター全部を組み合わせたら、 その画像のある点から反射してきているのがどんな光だか教えてくれるスペクトルを作れるんだ。 白い点の写真を撮って、ぼくらがちゃんと測定できてることを確かめるために キャリブレーション・ターゲット (calibration target)、 縮めてキャルターゲット (caltarget)、の多重スペクトル・スポットもやった。 こっちは発射の前にあらかじめテストされてたから、 どんなものが見えるはずかわかってて、おかげでそのデータをもとに他の画像を調整できる。 白いもののスポットをとってみたら、それは水のスペクトルととってもよく似ていた。 スペクトルの青い部分ではグラフから外れてた。 これは白いものが水の氷だっていう、いくらかましな証拠だった。

塩説に最後のとどめを刺したのは、 何日かたって溝の中を見てみたらいくつかカタマリが消えちゃってたとき。 消えちゃうためには、それが昇華した、つまり固体が液体を経ずに気体になったのに間違いなかった。 塩はそんなことしない。

何人かには「なぜ TEGA が焼いたときには氷が見つからなかったの?」って尋ねられた。 TEGA のオーブンを一杯にするときの問題のせいで、 何 sol の間かサンプルは太陽のもとに置かれてたんだ。 それがさらされてたせいでドアが閉じられる前に水の氷は昇華してしまったんだろうな。 技術者たちは、TEGA の中にいくらかの水の氷を何とか取り入れるために、 トゥーソンに戻って、ぼくのテスト・モデルで今、 サンプルの供給の新しい方法をテストしているところ。

「どうしてドライアイスじゃないの?」とも訊かれる。 そもそもドライアイスはこの地域にはまだ今は存在できないんだ。 それは単純にそこまでは寒くないから。 地球ではドライアイスが固体であるためには、 摂氏 −78.5 度 (華氏 −109 度) 以下じゃないといけない。 これは火星では、大気圧が小さいからさらに低い温度になる。 ぼくは、これまでドライアイスに必要なほどの温度には単に出会ってないのさ。

「そんな風に振る舞うような、私たちがまだ出会ったことのない何かの化学物質じゃないの?」 と何人か。 ぼくらが見たこともないような何かの物質であるってことは確かに可能であるかもしれないけど、 証拠はその仮説とは正反対のもの。 もしその物質が氷のように見えて氷のように振る舞うんだとしたら、それはたぶん水の氷。

氷の部分のスペクトル、ぜひ見てみたいものだ。 素人じゃまともな調整はできないけど、下の 3 つの非公式画像は sol 28 の溝の氷の画像で、 左上が通常の R, G, B フィルターに相当するものでそれなりに独自合成したもの。 左下と右下は近赤外領域のフィルターのうち 6 枚を 3 枚ずつ R, G, B に割り当てたもの。 左下の方がいくらか短い波長のもので、右下がやや長い波長のもの。 何も考えずいい加減に遊んでみただけのものだけど、これだけでもフィルターごとの反応の微妙な違いが見えてくるから面白い。 どの画像にもある中心部の白い部分と黒い部分の違いも気になるけど、 右下では (グレーに調整された地面と比較して) 中心部が一番長い 1000 nm ほどの波長をより吸収しているみたいだ。 単に、これは長い波長ほど吸収しているからかもしれない。 左下はもっと変で、地面の方も含めて色の違う領域に 2 つに分かれている。 これも太陽の反射具合とかそういうものかも。 いずれももちろん疑似カラー。

水蒸気は代表的な温室効果ガスだし、水の中でも赤い光が透過できないので、 おそらく全体としては氷でも長い波長を通しにくい傾向があるんだろう。 離れたところの物質を調べるのに赤外線の反射光のスペクトルを分析するというやり方は、 天文学でもよく見かけるけど、 分子の種類とかで決まる光を鋭く吸収する特定の波長があって、それで物質が特定できる。 フィルターの波長は何かの意図があって選ばれたはずだと思うけれど、 1000 nm 以下で氷が特に吸収するスペクトルはあるのかなあ。

それから二酸化炭素の相図は、 フリーズ・ドライを参照。 火星の気圧では −120°C よりももっと下じゃないとドライアイスは安定じゃない。 対して、今の季節の最低気温は −80°C ぐらい。 おそらく冬にはちょうどこの二酸化炭素の氷点まで下がって大気が凍り付き始める。 大気がほぼ二酸化炭素なのだから、何日かでもドライアイスが存在できるという環境は、 火星では劇的な事態を意味することになってしまう。 実際、どこで見たかは忘れたけれど、冬に気圧は 2/3 ぐらいにまで下がるともきく。

そして今日は夏至だ — 火星では。 もう一つのエントリ (Phoenix Phestival, 2008/06/21) でそのことに触れられている。 地球の夏至と 4 日違いでシンクロしたわけだ。 フェニックスがいるのは北極圏なので昼が一番長いというより一日中昼なのだけど。 火星は自転周期も地球と 3 % の差しかないが、自転軸の傾きも地球に近くて 25°.2 ぐらい (地球は 23°.4)。 フェニックスのいるところでは今日は 12:00 に、47°ぐらいまで太陽が昇り、真夜中でも 3° ぐらいだかに北の空に居つづけているはずだ。 これからは徐々に太陽が低くなって暗闇とドライアイスの冬が近づいて来るけれど、 残り 2 ヶ月、まだまだいくつも大きな発見が待ち構えているだろう。

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